半導体微細加工技術により作製された機械構造を半導体集積回路に一体化した微小電気機械システム(MEMS)は各種センサ,アクチュエータとして自動車,民生,通信など様々な応用先で実用化が進められている.これらのMEMSのデバイスでは微小な変位,力を発生,検出しており,ナノメートル以下の変位,ナノ,ピコニュートンオーダの荷重を計測している.近年,これらの機能を応用してナノスケールの材料,特にカーボンナノチューブや生体材料などの機械的特性,電気機械特性の計測が試みられ始めている.これらの計測では回路との一体化による高精度な測定が期待されている.本講演では,MEMSの主要な動作原理,代表的なデバイス構造とその精度,分解能を示し,さらにMEMSを用いたマイクロからナノスケールの材料計測の研究動向と,演者の進めている単結晶シリコンのマイクロスケールでの各種試験,およびカーボンナノ材料の引張試験計デバイスについて紹介する.
キーワード:MEMS,マイクロ・ナノ材料,機械的特性,引張試験
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy; AFM)はナノ〜原子レベルでの試料表面の形状を測定できる顕微鏡である.AFMにはいくつかの動作モードがあり,原子を観察できるのは周波数変調方式(FM)のAFMである.近年,FM-AFMでは原子画像を測定するだけでなく,様々な応用測定が可能となってきた.具体的には,熱度リフトの存在する室温環境であっても,ピコメートルオーダーで探針の位置制御を行える技術を開発したことで,原子識別や原子操作を行うことが可能になった.原子識別の実験では,測定試料表面の原子1つと探針先端原子1つの間にはたらく原子間力の距離依存性を再現性よく測定できることになった.試料表面の原子種の違いによる距離依存性曲線の形状の違いから原子の識別をおこなうことが可能となった.さらに探針を所定の位置で所定の走査をさせることで,試料表面の原子を自由に動かすことが可能となった.講演では,FM-AFMの原理を含めてこれまで開発してきた計測技術に関して説明を行う.
キーワード:ピコメートル,原子間力顕微鏡,周波数変調,トラッキング
タンパク質は時間とともに形態・構造を変えながら,その特有の機能を個々の分子レベルで発現する.例えば,基質との結合やそれに続く基質の分解は,最初局所の構造を励起し,それがその後の時間発展するグローバルな変化をドライブし機能を生じせしめる.すなわち,「構造」と「機能」は密接に関係している.それゆえ,タンパク質が機能する仕組みを理解するには,どのような形態・構造の変化が個々のタンパク質分子に起こっているかを知ることは極めて重要である.
原子間力顕微鏡(AFM)は液中環境下でナノスケールでの構造を可視化できる数少ないツールの一つであるが,通常のAFMでは1画像を得るのに分オーダーの時間が必要であるため,動的過程はもちろん基板に強く吸着した試料しか観察できなかった.我々のグループは,微小カンチレバー,新しい光てこ光学系,高速振幅計測法,ダイナミックPID法,高速スキャナーなどの様々な要素技術を開発し,タンパク質の機能や構造を乱すことなくその動的振る舞いを安定に可視化できるようになった.本講演では高速化を実現した各要素技術の解説とンパク質の観察例を紹介する.
キーワード:原子間力顕微鏡,高速イメージング,タンパク質
MEMSベースの製品はますます複雑化と集積化が進み,多品種への対応や競合製品増加による価格圧力,開発遅延による機会損失といったマーケットの変化に益々晒されることにより,製品開発の効率化が求められている.そこでMEMS,システム,アナログIC,レイアウトの各設計者にとって親和性があり,様々な設計者からの要求によって変化するMEMSの設計表現をロスレスかつシームレスに共有してシミュレーション検証が可能な設計環境が望まれる.現在のAnalog/Mixed-Signal(AMS)コミュニティにおけるVerilog-AMSやVHDL-AMSなどのハードウェア記述言語はMEMSを直接表現する仕様にはなっておらず,設計ツールのベンダ各社は独自拡張した言語やモデル,レガシーなSPICE記述による表現などを試みている.そこで本講習会ではMEMS加速度センサにおけるΔΣ変調によるデジタル制御モデルを例にとり,MEMSデバイス設計及びそれを制御するカスタムICの設計を融合するプラットフォームの可能性について紹介する.
キーワード:MEMS,MEMS+IC, AMS, システムレベル, トランジスタレベル, シミュレーション, 設計環境